アメリカのインターネット事情[第二弾]データセンター事情
- ケイゴ
- 3 分前
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今回はIIJ Engineers Blog「アメリカのインターネット事情」に書いた内容から「データセンター事情」というテーマで詳しく掘り下げていきます。第一弾の回線・ファイバー事情の記事もぜひご覧ください。
都市型と郊外型データセンターの決定的な違い
都市型データセンター「キャリアホテル」
アメリカのデータセンターは、都市部と郊外で果たす役割が大きく異なります。地理的・政治的な要因も、データセンターが発展するうえで大きく関わってきました。
まず、都市部データセンターの役割は、キャリア同士が接続するネットワークの交差点、いわゆるネットワーク拠点である点にあります。このようなデータセンターは「キャリアホテル」と呼ばれます。キャリアホテルでは、ラックを多数使用して大量のサーバーを設置するような使い方は行わず、Peering や Transit、IP サービスなどに必要な最小限の設備のみを配置するのが一般的です。
IIJ Americaのオフィスがあるニューヨークには、代表的なキャリアホテルとして 60 Hudson、32 Avenue of Americas、111 8th、165 Halsey の4拠点が存在します。これらのデータセンターは建物自体が古く、設備増設工事も容易ではないため、電力供給に大きな余裕があるわけではありません。もともと電話会社の局舎や貨物倉庫、大型デパートなど、別用途で使用されていた建物を転用しているケースも多く、必ずしもデータセンター用途に最適化された構造とは言えません。
一方で、これらの都市部キャリアホテルは常に需要が高く、ラックを借りたい事業者が順番待ちの状態となっていることも多いため、利用コストは高額になりがちです。都市部では利便性の高さから地価が高騰しており、物価の上昇や老朽化した設備の維持・メンテナンスコストの増加も、コスト上昇の要因となっています。
郊外型データセンターの特長は?
都市型データセンターに対して、郊外型データセンターは、複数ラックを利用して大量のサーバーを設置・運用する用途に適しています。データセンター専用として新たに建設された建物が多く、床耐荷重、電力容量、冷却設備などにも余裕があり、最新の設備が導入されています。そのため、都市型データセンターと比べると、利用料金は大幅に抑えられる傾向にあります。
ニューヨーク周辺では、ニュージャージー州の Secaucus に加え、近年では Piscataway や Carteret といったエリアが、郊外型データセンターの立地として人気を集めています。データセンター事業者の視点でも、コストが高くなりがちで設備増設が難しい都市型データセンターより、今後の拡張余地が大きい郊外型データセンターに対して、設備増強や営業活動のリソースを重点的に投入しているように感じます。
一方で、郊外型データセンターには課題もあります。物理的な距離があるため、現地へのアクセスが容易ではない点や、利用したいキャリアが On-net ではなく Off-net となる可能性がある点には注意が必要です。

データセンター密集地域
アメリカには、特にデータセンターが集中的に立地している人気の地域がいくつか存在します。代表的なエリアとしては、バージニア州のアッシュバーン、テキサス州のダラス、アリゾナ州のフェニックス、オレゴン州のヒルズボローなどが挙げられます。これらの地域はいずれも、広大な土地を確保しやすく、安定した電力供給が可能である点が大きな魅力となっており、GAFAM に代表されるような巨大なサーバー群を運用する企業にとって、非常に適した環境が整っています。
このように限られた地域にデータセンターが密集する背景には、行政による政策的な後押しが大きく関わっています。具体的には、データセンター事業者に対する税制優遇措置や、産業向け電力料金の引き下げといった施策を意図的に講じることで、企業誘致を進めています。自治体にとっては、雇用創出や固定資産税収入の増加といったメリットが期待できるため、こうした政策が積極的に採用されてきました。

世界最大のデータセンター集積地:Ashburn(アシュバーン)
Ashburn(アシュバーン)がデータセンターの拠点となった背景
アメリカのデータセンターを語るうえで、北バージニアに位置するアシュバーンの存在は無視することはできません。現在、アシュバーンは世界最大級のデータセンター集積地として知られ、クラウド事業者、通信キャリア、CDN、金融機関、政府系システムなどが密集する地域となっています。業界では「世界のインターネットトラフィックの多くがアシュバーンを通過する」と表現されることもあります。しかし当初からデータセンターの拠点として計画された場所ではなく、その発展は歴史的・地理的条件が重なった結果だと言えます。
アシュバーンはバージニア州ロウドン郡に位置するCensus-Designated Placeで、1990年代初頭までは人口数千人規模の農村・郊外地域でした。その後、ワシントンD.C.都市圏の拡大とともに急速に住宅開発が進み、現在では高所得層も多く居住する郊外都市へと成長しています。首都圏近郊でありながら、広い土地を確保できる特性が、データセンター集積の好立地となりました。
1990年台のインターネット黎明期
技術的な背景として重要なのが、1990年代のインターネット黎明期におけるネットワーク集積です。当時、米国のインターネットは学術ネットワークから商用ネットワークへ移行する過渡期にあり、北バージニア周辺には東海岸最大級のInternet Exchange Point (ISPや研究機関がトラフィック交換する場所)であるMAE-Eastがありました。ISPや研究機関、政府関連ネットワークが集まったことで大量のトラフィックがこの地域を経由することで、アシュバーン周辺は自然とインターネットインフラの中核を担うようになっていきました。
さらに、ワシントンD.C.に隣接する地理的条件も発展を後押ししました。首都圏には連邦政府機関や国防・情報関連組織が集中しており、高い信頼性や低遅延、厳格なセキュリティ要件が求められます。アシュバーンは首都に近接しながらも、市内に比べて土地の確保が容易で、セキュリティやインフラ設計の自由度が高い地域でした。そのため、政府系・準政府系システムを含む重要なITインフラの設置場所として現実的な選択肢となっていきました。
2000年代
2000年代に、この評価を決定づける存在となったのがAOLです。ダイヤルアップ全盛期に世界最大級のISPであったAOLは、アシュバーン周辺に大規模なサーバ設備とネットワーク基盤を構築し、成功させました。この事例は、北バージニアという地域で巨大なITインフラが成立することを業界全体に示し、他の事業者がアシュバーンを選択する際のハードルを大きく下げました。
こうした流れを支えたのが、通信および電力インフラの充実です。アシュバーンはニューヨークやアトランタ、シカゴなど主要都市を結ぶ長距離光ファイバー網に早期から組み込まれ、大西洋横断ケーブルの陸揚げ地点にも比較的近い位置にあります。また、大規模工業用途に対応可能な電力供給網が整備されており、冗長構成を前提とするデータセンター運用との親和性が高い地域でした。これらのインフラ条件は、データセンター立地として大きな優位性となりました。
加えて、アシュバーンを含むロウドン郡はデータセンターを成長産業として明確に位置づけ、税制優遇や用途地域の柔軟化、迅速な許認可といった政策を進めてきました。その結果、データセンター関連の税収は郡財政の重要な柱となり、公共サービスへの再投資が可能となり、さらなる集積を促す好循環を生み出しています。
その後
2010年代以降は、AWSやMicrosoft Azure、Google Cloudといったハイパースケーラーがアシュバーンを中核リージョンとして採用したことで、クラウド、CDN、SaaS、金融、コンテンツ事業者が集積し、ピアリングの容易さや低レイテンシといった利点が相互作用することで、今や代替が難しいインターネット基盤の中枢へと成長していったのです。
電力供給待ちが他地域に与える影響
一方で、この運用方法には課題も存在します。世界最大級のデータセンター集積地とされるアシュバーンでは、需要の急増に電力インフラの整備が追いつかず、電力会社からの供給が順番待ちとなり、実際に数年単位で待たされるケースも発生しています。結果として、土地や建物を確保できたとしても、十分な電力が引き込めず、計画どおりに稼働できないという新たなボトルネックが顕在化しつつあります。
こうした電力供給待ちの問題は、特定の地域だけにとどまらず、他のデータセンター立地にも影響を与え始めています。アシュバーンでの電力確保が難しくなるにつれ、事業者は同一州内や近隣州に目を向けるようになり、電力や用地に余裕のあるエリアへと新たな投資先を分散させる動きが見られるようになりました。
実際、バージニア州内でもアシュバーン周辺以外の地域や、ノースカロライナ、ジョージアといった南東部の州、さらには中西部や南西部の一部地域でも、新たなデータセンター計画が増加しています。これらの地域は、地価や電力コストが比較的低く、電力会社との調整が進めやすい点が評価されています。また、再生可能エネルギーを組み合わせた電力供給を前提とすることで、環境負荷への配慮をアピールする動きも見られます。
このように、かつては「特定の有名エリアに集約する」ことが前提だったデータセンター立地は、近年では「複数地域に分散させる」方向へと徐々にシフトしつつあります。これは単なるコスト対策だけでなく、電力供給リスクや自然災害、規制変更といった要因に備える意味合いも含んでいます。今後は、ネットワーク接続性と電力確保のバランスをどこで取るかが、データセンター選定におけるより重要な判断軸になっていくと考えられます。
最後に
今回は、アメリカにおけるデータセンター立地の考え方と、その背景にある歴史やインフラ、政策的要因について記載しました。都市型キャリアホテルと郊外型データセンターは、それぞれ役割が明確に異なります。どちらが優れているかではなく「何を実現したいか」によって選択が変わります。また、アシュバーンに代表されるデータセンター集積地域も永続的な安定を保証するものではなく、電力や規制といった新たな制約が次の動きを生み始めています。今後のインフラ設計では、そのデータセンターで実現したいこと、電力、金額 等を俯瞰し、長期的な視点で最適解を考えることが、より重要になっていくと感じています。
次回は、こうしたデータセンターやネットワークがどのように米国内の東西を横断するファイバーや国際通信と接続されているのか、米国東西間回線と海底ケーブルに焦点を当てて掘り下げていきます。
参考URL
Wikipedia: Ashburn, Virginia https://en.wikipedia.org/wiki/Ashburn,_Virginia



