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アメリカのインターネット事情[第三弾]東西間回線と海底ケーブル

  • 執筆者の写真: ケイゴ
    ケイゴ
  • 7 時間前
  • 読了時間: 11分

今回はIIJ Engineers Blog「アメリカのインターネット事情」に書いた内容から第三弾として「東西回線と海底ケーブル」というテーマで詳しく掘り下げていきます。第一弾第二弾の記事もぜひご覧ください。


これまでアメリカの回線、通信会社、データセンター事情について、日本との違いや、それらの背景にある歴史的経緯について説明しました。本稿では視点をさらに広げ、アメリカ国内を東西に横断する回線と、それを支える海底ケーブルがどのような思想や制約のもとで構成されているのかを掘り下げていきます。



アメリカの東西通信の特性


アメリカは単一国家でありながら、東西間の距離が非常に長距離です。例えば東西海岸の大都市、ニューヨークとロサンゼルスを直線距離で結ぶと、およそ 4,000km あり、これは東京と大阪間(約500km)を 4回以上往復 するのと同程度の距離になります。また、東京と香港間の距離は約 2,900km 程度であり、国際海底ケーブルは約3,400km程度です。二国間の海底ケーブルもよりも長いルートとも言えます。その結果、米国のニューヨークとロサンゼルスを結ぶ通信は、国内通信でありながら、性質としては国際回線と同じような距離による遅延や特性を持っています。

こうした距離の影響により、東西間通信では往復遅延(RTT)として 60〜80ms 程度 を見込んでおく必要があります。リアルタイム性が求められるアプリケーションや、金融系システム、クラウド間接続においては、この遅延がユーザー体験や処理性能に直接影響します。そのため、東西それぞれの拠点に設備を分散配置し、ローカル処理やフェイルオーバーが可能な構成を取ることが、サービス品質を維持するうえで重要になります。

距離と遅延を前提とした設計思想が、米国ネットワークの基本になっていると言えるでしょう。


ロッキー山脈という物理的制約


アメリカの東西回線を語るうえで欠かせない存在が、ロッキー山脈です。標高が高く、降雪や寒暖差といった気象条件も厳しいこの山脈は、米国を南北に縦断するように広がっており、東西を結ぶファイバーを自由に敷設できる環境ではありません。地形そのものに加え、国立公園や環境保護区域といった法的・行政的な制約も多く、ルート選定には長年の運用実績と各方面との調整が必要になります。

その結果、アメリカ国内の東西を結ぶ長距離ファイバーは、大きく分けて「北ルート」「中央ルート」「南ルート」の3系統に集約される傾向があります。北ルートはシカゴやシアトルを経由し、歴史的に通信インフラが集積している都市を結ぶルートです。中央ルートはデンバーやカンザスシティ周辺を通り、東西を最短距離で結ぶことが可能なため、遅延を抑えたい用途で重視されます。南ルートはテキサスやカリフォルニア南部を経由し、中南米や太平洋方面との接続性が良い構成となっています。

多くのキャリアは、これらのいずれか一つ、もしくは複数のルートを組み合わせてバックボーンを構成しています。ただし、地理的な制約が大きいため、異なるキャリアを利用していても、結果的に同じ山岳地帯や幹線区間を共有しているケースも少なくありません。東西冗長を考える際には、単に拠点やキャリアを分けるだけでなく、どのルートを通っているかまで意識することが、実運用における可用性や障害耐性を左右する重要なポイントになります。


アメリカのケーブルルート1
アメリカのケーブルルート1

ロッキー山脈を越えるためには、北/中央/南のケーブルルートがあり、これらのルートで回線経路の冗長を図っている。



カナダ経由という第4の選択肢

米国の回線は長距離に及ぶため、列車や自動車による事故、老朽化した設備のメンテナンスなど、物理的な要因による障害が比較的頻繁に発生します。加えて、アメリカ大陸特有の自然環境の影響を大きく受ける点も特徴です。ハリケーン、洪水、山火事といった自然災害が広範囲で発生しやすく、回線が長期間にわたって利用できなくなるケースも少なくありません。

実運用の現場では、あるルートが災害や工事の影響で長期間停止している最中に、別ルートで障害が発生し、ネットワーク全体の安定性に神経を使う場面もあります。東西回線が実質的に3系統に集約されている状況は、事業運用の観点から見ると無視できないリスク要因となります。

こうした背景から、第4の選択肢として検討されるのが、ロッキー山脈の制約を回避したカナダ経由の回線ルートです。このルートは、ニューヨークから五大湖周辺を抜けてカナダ国内に入り、トロントを経由してカナダ西海岸のバンクーバーへと至る経路を取ります。米国内ルートとは異なる地理・インフラを通過するため、物理的に独立した冗長経路として有効です。

特に可用性や事業継続性を重視するバックボーンネットワークの設計では、「米国内3ルート+カナダ経由」という4ルート目の選択が、米国ネットワークのデザインに重要になってきます。


アメリカのケーブルルート2
アメリカのケーブルルート2

ロッキー山脈越えの4つ目の冗長経路として、カナダ国内を通過するケーブルルートがある。ここまでの冗長化をしている業者はそうはいない。




東西海岸・中央都市の役割


東海岸では、ニューヨーク、ニュージャージー、バージニア州アッシュバーン(Ashburn)が、アメリカ国内でも特に大きなトラフィック集積地となっています。ニューヨークおよびニュージャージーは金融機関やコンテンツ事業者が集中しており、都市部キャリアホテルを中心に多くのトラフィックが行き交っています。一方、アッシュバーンは大規模データセンター群と IX が集積することで、東海岸全体のハブとして機能しています。

西海岸では、ロサンゼルス、サンノゼ、シアトルが太平洋側の主要ゲートウェイとして重要な役割を担っています。アジア向けの海底ケーブルが集まるロサンゼルスや、クラウド・コンテンツ事業者が集積するサンノゼ、北米とアジア・カナダを結ぶシアトルは、それぞれ異なる性質のトラフィックを受け持っています。

また、米国中央部では、シカゴ、ダラス、デンバーといった都市が、東西トラフィックを中継する要衝として機能しています。これらの都市は地理的に東西の中間に位置し、複数の長距離ルートが交差するため、バックボーン設計において欠かせない存在です。こうした中継拠点の選び方によって、遅延や障害時の迂回経路の柔軟性が大きく変わります。

結果として、これらの都市間をどのようなルートで結び、どこに拠点を置くかが、通信キャリアやネットワーク設計者にとって、品質可用性・運用性を左右する重要な判断ポイントとなっています。



海底ケーブルと陸揚げ局


東西回線は、単に米国内の通信を支える存在にとどまらず、海底ケーブルと密接に結びついたインフラとして設計されています。西海岸はアジア向け、東海岸は欧州向け、南部は中南米向けといった形で、それぞれ異なる地域への海底ケーブルの陸揚げ局が集中しており、米国内のバックボーン回線は、これら国際回線への接続を前提として構成されています。そのため、国内回線と海底ケーブルを切り離して考えることはできず、両者を一体としてネットワーク全体をデザインする必要があります。

例えば、アメリカ東西に拠点を持ち、ロッキー山脈を横断する国内ルートを北・中央・南の3経路で冗長化していたとしても、西海岸側の海底ケーブルがロサンゼルスやサンノゼといった限られた地域にしか陸揚げしていない場合、実際のトラフィックは特定の都市に集中してしまいます。このような構成では、国内回線の冗長性を確保していても、国際通信の出口が実質的に単一障害点となり、設計上想定していた可用性を十分に発揮できません。

そのため、国際通信を含むネットワーク設計では、国内の東西回線ルートだけでなく、どの地域に陸揚げする海底ケーブルを選択するかが重要な判断ポイントになります。西海岸だけでなく、北米西岸の複数地点や、東海岸・南部を含めた地域ごとに適した海底ケーブルシステムを組み合わせることで、初めて地理的に分散された冗長構成が成立します。

米国の大規模ネットワークでは、「国内3ルート+複数の国際出口」を前提とした設計思想が一般的になりつつあります。これは単なる回線数の多さではなく、トラフィックの流れそのものを分散させることで、障害や災害時の影響を最小限に抑えるための現実的なアプローチと言えるでしょう。


東海岸の陸揚げ局
東海岸の陸揚げ局

東海岸は近い範囲に陸揚げ局が点在している。自然災害/国内ケーブル/海底ケーブル/POPを複合的に考慮して、バックボーンを設計する必要がある。


大規模な障害

過去を振り返ると、アメリカではさまざまな大規模障害が発生してきました。ここでは、私自身の記憶や、これまで社内で語り継がれてきた代表的な事例をいくつか紹介したいと思います。

私が住むニューヨークで、象徴的な出来事として挙げられるのが、2001年に発生した9.11同時多発テロと、2012年のハリケーン・サンディーによる被害です。9.11当日には、倒壊したビルから発生した大量の粉塵がマンハッタン内に充満して、DCの空調設備を詰まらせてしまい、冷却装置が機能しなくなったと聞いています。建物自体に直接的な被害がなくても、想定外の環境要因によってデータセンターの運用が継続できなくなるという点は、多くのエンジニアに強い印象を残しました。ハリケーン・サンディーでは、超大型のハリケーンが大都市ニューヨークに直撃し、広範囲で長時間の停電が発生し、都市型インフラの脆弱性が改めて認識されることとなりました。

また、ニューヨークでは降雪量が多く、データセンターがあるマンハッタンに入る橋が閉鎖されることも珍しくありません。前述のパンデミックの際には、交通量の制限で、橋の往来が困難になる状況が続いたこともありました。こうした経験を通じて、「バックボーンエンジニアは、いざというときにデータセンターへ駆け付けられる場所に住むべきだ」という、暗黙のルールが社内で共有されるようになりました。都市機能が維持されている平常時には意識されにくいものの、非常時には物理的な距離が運用を左右する現実が浮き彫りになりました。

南部地域では、2022年にルイジアナ州で発生した記録的な豪雨による大規模洪水が大きな被害をもたらしました。広範囲で道路や電力設備が浸水し、通信インフラも長期間にわたり影響を受けました。この洪水では、私たちが利用していた回線にも深刻な影響が出て、代替ルートへの切り替えを余儀なくされました。南部は地理的にハリケーンや豪雨の影響を受けやすく、こうした水害リスクが常に設計の前提条件と考えています。

カリフォルニアでは近年、非常に特徴的な障害が発生しています。日本でも報道されているとおり、大規模な山火事が毎年のように発生しており、電力設備や通信設備が直接的・間接的に被害を受けるケースが増えています。加えて昨年には、ロサンゼルス市内での抗議活動の際に、暴徒がマンホールを開けて内部に火を放ち、地下のファイバーが焼損するという事故も起こりました。自然災害に加え、社会的・人的要因が通信障害の引き金になる点も、米国のネットワーク運用を考えるうえで無視できない特徴と言えるでしょう。



冗長化設計の現実解


東西回線の冗長化を検討する際、単に異なるキャリアを選択するだけでは十分とは言えません。重要なのは、それぞれの回線がどのルートを通過し、どの都市や山岳地帯、さらにはどの陸揚げ局や国際回線設備を共有しているかを把握したうえで設計することです。米国内回線と国際回線は密接に結びついており、国内と海外を分けて考えるのではなく、全体を一つのネットワークとして捉える視点が求められます。

理想論としては、すべての回線を完全に物理分離し、単一障害点を持たない構成が望ましいです。しかし、実際の米国ネットワークでは、地理的制約や敷設可能なルートの限界、コストという現実的な要因から、完全な物理分離を実現することは困難です。そのため、実務においては「完全に独立した物理分離」を目指すのではなく、「同時に断となりにくい構成」を現実的な目標として設定することになります。

例えば、異なるキャリアを選択していたとしても、実際には同一の山岳地帯や都市部、河川沿いを通過しているケースは少なくありません。また、陸揚げ局や都市部のキャリアホテルといった要所が共有されている場合、想定外の災害や事故によって複数回線が同時に影響を受ける可能性があります。こうした点を把握せずに冗長化を設計すると、図面上は冗長であっても、実運用では脆弱な構成となってしまいます。

そのため、冗長化設計では「どこが同時断になり得るか」を洗い出し、可能な限りその重なりを減らすことが重要です。地理的・環境的なリスクを分散させつつ、障害発生時にトラフィックを逃がせる余地を確保することが、現実的かつ持続可能な冗長化設計のポイントになります。米国のネットワーク設計においては、こうした“割り切り”と“見極め”が、設計者に求められる重要な判断要素と言えるでしょう。


最後に


アメリカの東西間回線は、地理、歴史、政治、経済といった複数の要素から強い影響を受けて形成されています。ロッキー山脈という自然条件、地域ごとに発展してきた通信インフラ、そして海底ケーブルとの接続関係を総合的に理解することで、現実的で持続可能なネットワーク設計をすることができます。

次回は、ネットワークを支える「人」と「知識」が集まる場所、『米国内のITカンファレンス』に焦点を当てていきます。


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